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滅びの言葉

 『バルス』。「天空の城ラピュタ」のラストシーン、遂に滅びの言葉を唱える二人。そして城の崩壊。このアニメ映画、数ある宮崎駿アニメの中でも傑作の部類に入る。しかし、その物語の中でどうしても不可能と思われる個所がある。
  シータはこう言った。恐ろしい滅びの言葉がある。おばあちゃんにそれを教わったと。そしてラストシーンではパズーと共にその言葉を唱え、ラピュタは壊滅する。ここでかの名台詞「目が〜、目が〜。」が飛び出すわけである。さて、賢明な読者ならもうお分かりだろう。これまでの数行のうちに矛盾が隠されている。果たしてそれは何であろうか。しばらく考えていただきたい。





 ここでヒントをひとつ。
滅びの言葉を教わった。そして滅びの言葉を唱えたためにラピュタは滅びた.。

 もうお気づきだろうか。おばあちゃんはシータにこう言った。
「恐ろしい滅びの言葉、それは全てを滅ぼすじゃろう。しかしながらおまえは王となるべき人物、全てを知る必要がある。滅びの言葉、それは『バルス』。」
「わかったわ、ばばあ、『バルス』やな。それが言うたらあかん言葉やな。」
次の瞬間、早くもムスカの目がつぶれてしまう。それも2度も。まだシータ達に遭遇していないにもかかわらず。
 つまり、言ってはいけない言葉を伝えることはできないのである。これが大きな矛盾である。少し考えてみよう。言葉でなくても伝える方法があるはずである。そう、それは「文字」を使うこと。とても簡単なことだ。
 おばあちゃんはシータに一枚の紙切れを渡した。そこには次のように書いてある。
「バルス。」
そしてその数秒後。
「目が〜、目が〜。」
「やれやれ、全くわかったあらへんな、ばばあ。紙に書いてもあかんねや。それぐらい俺が言わんかてわかるやろが。」
「すまんのう、シータや。わしにはそこまで考えがまわらなんだ。」
 かくして筆談法はあっさりと葬り去られた。しかしあきらめるのはまだ早い。我々は次なる手段を模索した。
おばあちゃんはシータにこう言う。
「よいか、シータ。壱文字目が『バ』。弐文字目が『ル』。そんでもって参文字目が『ス』や。」
「わかったわ。ばばあ。ようは、バルス言うたらあかんねんな。」
ドッカーソ。
 幽白の桑原が「あつい」を口にしたとき以上にあほである。っていうかあほや。まあ、考えればわかるだろうが、言葉を知っているという時点で危険である。要するに知らなければ安全ということだ.。しかし、必要なときに唱えられなければ意味がない。そこでだ。全てを解決して見せよう。
 おばあちゃんはシータに一枚の紙切れを渡した。そして次のように言う。
「ええかいな、シータ。この封筒の中には滅びの言葉が書かれとる。でもな、滅びの言葉は紙に書いただけで発現してしまうさかいに。暗号になっとるんや。これはほんまに必要なときが来るまでは絶対に見たらあかんど。」
「おお、わかったわ、ばばあ。」
そして時は経る。
二人はムスカにこたえる。時間をくれと。
パ「シータ、おまえ確か、滅びの言葉があるとか言うてたな。それはどんな言葉やねん。今すぐ教えてんか。」
シ「おお、俺もおんなじことを考えとったんや。ちょいまちいな。」
シータはポケットをまさぐる。
シ「あったわ。これや。ほんなら開けて見てみよ。」


二人、暫し言葉を失う。
パ「ちゅーか、これ何やねん。」
シ「そんなん俺が書いたんとちゃうし。」
パ「ほんで、これ、そのまま読めばええんか。」
シ「それより『田端』って俺の友達におるんやけど。」
パ「多分な。俺が思うに。この右下の落書きは何やねん。」
シ「これなあ、俺も気になったんや。もしかして狸ちゃうやろか。」
パ「そうか、狸やな、これは。ちゅうことは『タ』を飛ばして読む言うことやさかいに…。」
シ「わかった。バル…。おっと危ない、危ない。言葉を言うた瞬間に滅びてまうんやった。」
パ「そうなんか、危なっかしいなあ。俺も答えわかったで。」
シ「ほんじゃあ、いっぺんあほのムスカのところに戻るか。」

 いよいよ物語りはクライマックス。ムスカと対峙した二人。飛行石を掲げながら叫んだ.。
「バルタス!!」


ん?



目が、目が……普通に見えるやんけ。なんやねん、もう。驚かせよってからに。



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